2023-01-01から1年間の記事一覧

ベル 優しいいきもの

やるせなくなって、ふてくされ、和室にこもっていた。ひとりになりたかった。畳に寝転んで暗い天井をにらみ続ける。それしかできない。細く開いた襖の隙間から、ベルが鼻先をのぞかせた。光と一緒にするりと入り、私の脇腹に潜り込む。もの言わずただ体をく…

ベルがいる はじめに

世界で一番有名なビーグル犬は?ときかれたら、スヌーピー!と大きな声が返ってくるだろう。黒い垂れ耳に賢そうな横顔。屋根で昼寝しているばかりと思いきや、上機嫌で踊ったり、タイプライターで執筆したり、「配られたカードで勝負するしかないのさ」なん…

相棒

息子が急にウルトラマンにハマった。たまたま出先でウルトラマンと怪獣のフィギュアを買ったのがきっかけだ。その日以来、いつもそばに置いている。食事のときは、食卓にウルトラマンと怪獣たちを並べる。食べるのが遅い息子の応援団だ。ときどき自立できな…

月と祈り

寝る前、子どもたちは必ず月を探す。ベッドに入る夜の9時頃に、月はちょうど寝室の窓から見える位置に浮かんでいる。カーテンを開いて月を見ては、一言声を掛ける。明日も楽しく過ごせますように。今日はなんであんなに赤いのだろう。あそこの雲が光ってるか…

2023/8/7

夜、寝入る瞬間に指さきに蝶がとまった。黒く縁取られた羽は、光の粒を含んだように青くきらめいている。驚いて振り払うと、蝶は消えてしまった。夢というにはあまりに鮮明で、夜の闇に消えた蝶を追いたくなった。どうしてここに来たの。どこへ行ったの。そ…

彼らのことば

『目で見ることばで話をさせて』 作:アン・クレア・レゾット タイトルに惹かれて手にしたこの本は、ヤングアダルト向けの小説だ。 目で見ることばとは、手話のことだ。19世紀のはじめ、11歳のメアリーは、生まれつき耳が聞こえない。同じくろう者の父、聴者…

あちらの岸へ

私は心配症だ。初めてのことをする場合、とにかく調べまくってしまう。それでも安心できなくて、結局やらない…のではなく、だんだん心配するのが面倒くさくなり、見切り発車で始めてしまう。心配症のくせに面倒くさがり。これでなんとかやってきた。 来週、…

怖いもの

息子の幼稚園がキリスト教の教えに基づいた教育をする幼稚園なので、久しぶりに「お祈り」した。保護者会のはじめにお祈りを捧げてから始まるのだ。特定の宗教、神様を信じてはいないが、祈る対象を設定し、決まったフォーマットで祈りを捧げる行為は気持ち…

うちの子ここにいるよ

このブログに書いたことを大幅に直して、1冊の本を作った。とあるイベントで頒布するのを目標に作ったが、天候不良でイベントは中止になってしまった。今のところ、他に頒布するイベントが秋までないので、この作った本たちをどうしてあげればいいか悩み中だ…

2023/4/5

天気が良い。桜はもうほとんど散ってしまった。娘は明日から新学期。なんと8時15分に登校して9時15分に下校という、超短時間登校なのだ。新しいクラスと担任の先生が発表される。娘は特に緊張せず、明日から行くのめんどくさい〜とぼやきながら公園を走り回…

ロートレックの欠片

ロートレックはお好きですか? ロートレックは、十九世紀末のフランスの画家だ。少年の頃に脚を骨折したのが原因で下半身の成長が止まり、身体にコンプレックスを抱えていた。パリのキャバレーや娼館に集う人々を描き、ポスターを芸術の域にまで高めたといわ…

おままごと仲間

一年という短い期間だけど、保育士として働いたことがある。まさか自分が保育士になるなんて、夢にも思わなかった。 そもそも、私自身は幼稚園に通っていたし、娘の妊娠を機に退職したので、保育園とは無縁だった。 保育士に興味をもったのは、息子を妊娠中…

阿佐ヶ谷すいか

「ママの好きな人がテレビに出てるよ!」 息子が大声で叫ぶ。私は慌てて洗濯物を取り込み、階下のリビングへと駆け降りた。ママの好きな人って誰だろう。長谷川博己かな?うっすらと甘い気持ちになってテレビを見ると、ピンクのドレスをまとったおかっぱの女…