歩文舎コソコソ話① 本作りはボトルレター

今年の2月に初めて本を作った。

印刷所から段ボール箱が届いたとき、きゅっと胸が縮んだ。緊張と高揚。表紙を撫で、ページをめくる。あ、本だ。数日前は画面の上にしかなかった文章が、本になっている。この感動は病みつきになる。

本作りには文明の利器、スマホをフル活用した。少しでも時間が空けば「縦式」というアプリで文章を打ち、本文データを作った。表紙はcanvaというサイトでなんとか形になった。

周りに本作りをしている知人がいなかったので、全ての工程がネットの情報頼りだった。ネットの海に浮かんでいた情報は、まるで「あなたも本を作ってみなよ」と書かれたボトルレターのように私を導いてくれた。顔の見えない先人たちのおかげで、この世に一冊の本が生まれた。

算数苦手

もともと算数が苦手だったが、加齢のせいか輪をかけて苦手になっている。

先日、娘の宿題をみながら、一瞬考え込んでしまった。直径24センチの円の中に、3つの小さな円が入っています。小さな円の直径は何センチですか。問題文の横にはすでに円の図まで描かれている。にもかかわらず、答えが出るまで3秒ほどかかった。ショックだ。何問か解くうちに、ようやく脳の算数担当部分にエンジンがかかりだして安心した。まだ娘の前で恥はかきたくない。それにしても、なんとポンコツな脳みそよ。

高校生の時、母親が担任と面談した際に、数学の成績がひどすぎると指摘されたらしい。普通なら、担任に子どもの成績不振を言い渡された親は、なんとか挽回する手筈を相談するだろう。なのに母は大真面目に「娘は右脳だか左脳だかの、理系を司る部分が弱いんじゃないかと思うんです」と訴えた。中学受験の時に、算数ばかり勉強していたのに成績が上がらず、半泣きになっていた私を不憫に思ったすえの結論らしい。当然、担任は「そんなわけない、娘さんの怠慢ですよ!」と呆れ返り、母まで叱られて帰ってきた。次の日に改めて担任から「脳のせいじゃなくて、君の勉強不足だからな。お母さんにもちゃんと伝えたからな」と念押しされた。担任の顔には思い切り「やれやれ」と書かれていた。どんな親子だと思われただろう。

放っておくとどんどん脳が錆びつきそうなので、子どもたちの宿題をみてあげるのは良いトレーニングになる。せめて小学生のうちは頑張りたい。

ベル 優しいいきもの

やるせなくなって、ふてくされ、和室にこもっていた。ひとりになりたかった。畳に寝転んで暗い天井をにらみ続ける。それしかできない。細く開いた襖の隙間から、ベルが鼻先をのぞかせた。光と一緒にするりと入り、私の脇腹に潜り込む。もの言わずただ体をくっつけて丸くなる。部屋の外から家族たちがベルを呼ぶ声がする。もう寝る時間だから、行きな、と促しても動かない。首周りをなでてあげると、ぱたぱたとしっぽが畳を打つ。良い音。ベルー!と家族が大きな声で呼ぶ。ベルは和室を出て行くが、またすぐに戻ってくる。今、この家の中で誰が弱っているのかがわかっている。どうしてこんなに優しいいきものがいるんだろう。

ベルがいる はじめに

世界で一番有名なビーグル犬は?ときかれたら、スヌーピー!と大きな声が返ってくるだろう。黒い垂れ耳に賢そうな横顔。屋根で昼寝しているばかりと思いきや、上機嫌で踊ったり、タイプライターで執筆したり、「配られたカードで勝負するしかないのさ」なんて名言をつぶやいたり。実に愛おしい、世界一有名なビーグル犬、スヌーピー

我が家にも世界で一番かわいいビーグル犬がいる。名前はベル。11歳の立派な淑女だ。ちなみにスヌーピーの妹もベルといい、このキャラクターにちなんで名付けられた。

ベルは私の両親が飼っている犬だ。ベルが初めて実家に来たとき、私はすでに結婚して家を出ていたので一緒に暮らした経験はない。だから厳密に言うと、ベルは我が家の犬ではなく、両親の犬だ。

そんなベルが、二週間だけ我が家にやってくることになった。両親が念願のフランス旅行を満喫しているあいだだけ、預かることになったのだ。子どもたちは大喜びした。ずっと犬がいる生活に憧れていた。夫も楽しみな気持ちを隠せずニヤニヤしている。ベルが来るまであと二週間。それまでに家の片付けをしておかないと。